労働安全衛生法を確認
ストレスチェック制度とは、労働安全衛生法第66条の10により、常時使用する労働者に対して「心理的な負担の程度を把握するための検査」を実施するよう事業主に義務付けられている制度の事を指します。
実施の概要
「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票に労働者が回答し、それを集計・分析することで、自分自身のストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査です。
労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から、毎年1回、ストレスチェックを労働者に対して実施することが義務付けられています。
なおストレスチェックの問診には、以下の項目が含まれている事が必須条件とされています。
- ①職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
- ②当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
- ③職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
多くの事業場では上記の3分野の項目を含んだ「職業性ストレス簡易調査票57項目」が使用されています。一方で集団分析や職場改善に向けた取り組みでは調査項目を充実させた「新職業性簡易ストレス調査票80項目」や独自の問診項目を付加した物も使用されています。
実施マニュアル
ストレスチェックはその実施方法等についてマニュアルが定められており、こちらから確認することができます。
実施者・実施事務従事者
ストレスチェックの実施には実施者(①医師 ②保健師 ③検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大⾂が定めるものを修了した⻭科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師)を設定することが求められており、事業場で選任されている産業医が実施者となることが最も望ましいとされています。また産業医として選任されていなくても、当該事業場の産業保健活動に携わっている精神科医、心療内科医等の医師、保健師、看護師など、事業場の状況を把握している産業保健スタッフも実施者として推奨されます。
同じくストレスチェックの実務にあたっては、実施者の事務を補助する者「実施事務従事者」を設定することが可能です。実務事務従事者は実務担当者として、受検者のプライバシー及び個人情報を保護すると共に、適切な情報の取扱いと保管・管理が必要となります。
また上記の実施者と実施事務従事者には、労働者に対して直接的な人事権を有する者はなれません。ただし人事担当の部署の従業員(人事権のない者)が実務事務従事者になる事は可能です。
高ストレス者と医師による面接指導
実施者は回答された問診結果から次の①又は②のいずれかの要件を満たす者を高ストレス者として選定する事が必要です。
- ①「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
- ②「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
選定された「高ストレス者」の中から「医師による面接指導」の対象を選び各受検者に通知します。
「医師による面接指導」の対象とされた労働者から申出があった場合は、医師に依頼して面接指導を実施します。面接指導医師から、就業上の措置の必要性の有無とその内容について、意見をもらい、必要に応じて労働時間の短縮等の必要な措置を行ないます。
医師による面接指導では、面接の申出、対象者の呼出しや相談、およびその結果についての、プライバシーの保護と不利益な取り扱いの禁止が求められており、充分な配慮が必要です。
集団分析
ストレスチェックは対象の個人を「医師による面接指導」に繋げる一方で、「集団分析」を実施し、組織の課題や現状を把握することが努力義務として求められています。
この集団分析では個人を特定する事が無いよう少人数の分析は避けるようにする必要があります。
ストレスチェックでは、受検した個人への「医師による面接指導」のフォローだけではなく、集団としての職場を「集団分析」で把握し、環境改善に繋げることが求められており、職場改善の実施が労働者のストレス低減に効果がある事が研究からも示されています。
職場改善
厚生労働省が掲げる「第13次労働災害防止計画」では「ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上にする(※2016年では37.1%)」としています。
つまりストレスチェック制度では、法律での実施義務化から、ただ単純に実施するのではなく、集団分析結果から、職場改善へと繋げる取り組みの進展を各事業場に求められています。
また各事業場でも、日本国内における急激な労働人口の減少が避けられない状況、および人材確保の競争から、新卒採用が年々困難になりつつあります。
そういった潮流から、労働者が健康で安全に⻑期的な就労ができる環境整備を行なう取り組みや、先進的な企業の取り組みを表彰し、認証する制度が盛んになっています。
今後の企業におけるストレスチェックの取り組みも、単なる実施だけではなく、集団分析から職場改善へ向けた、健康で安全な職場環境づくりに繋がるより一層の実効的な取り組みが求められているといえるでしょう。
ストレスチェックの対象者は?
ストレスチェックの対象者となる「常時使用する労働者」とは、次のいずれの要件をも満たす者をいいます。(一般的には定期健康診断の対象者と同様です)
- ①期間の定めのない労働契約により使用される者(有期雇用者であっても、期間が1年以上である者、または1年以上使用されることが予定されている者を含む)
- ②労働時間が同種の業務に従事する通常労働者の4分の3以上である者
なお、上記の①の要件を満たし、労働時間が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の概ね2分の1以上である者に対しても、ストレスチェックを実施することが望まれます。
派遣労働者について
※派遣先事業場における派遣労働者の扱いは、法第66条の10第1項から第6項までの規定に基づき、派遣元事業者がストレスチェックを実施することとされています。
派遣先事業者は、派遣元事業者が実施するストレスチェック及び面接指導を受けることができるよう、派遣労働者に対し、必要な配慮をすることが必要です。また、努力義務となっている集団分析には、派遣労働者も含めた結果を集計・分析するとともに、その結果に基づく措置を実施することが望ましいとされています。
そのため、同じ職場で働く派遣労働者にも同様にストレスチェックを受検するよう勧める事は制限されません。
休職者について
※ストレスチェック実施時期に休職している労働者については実施しなくても差し支えありません。